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米国に見るセキュリティトークンカストディの類型と国内における実現アプローチ

 

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本記事では、日本におけるセキュリティトークンビジネスの発展とそれに伴うカストディのベストプラクティスを探るため、他国に比べてセキュリティトークンビジネスが進んでいる米国の事業環境を紐解いていきます。

国際的なセキュリティトークンビジネスの中心地・米国

現在、日本を始めとする世界各国でブロックチェーン上のデジタル証券発行ビジネスの規制整備が進んでいます。

ドイツでも日本と同様に今年1月に銀行法が改正され、規制当局にあたるBafin(ドイツ連邦金融監督庁)が仮想通貨を含むデジタルアセットビジネスのライセンス制を導入しました。Bafinには既に130以上にも及ぶST発行プロジェクトの目論見書が提出されているとされています。

伝統的な金融立国として知られるスイスでも、スイス市場監督当局(FINMA)主導のもとで、ICOに関する規制をいち早く行い、現在ではSTOにまつわる法整備にも取り組んでいます。

このように諸外国も着々とセキュリティトークンビジネスの制度整備を整えているものの、現在最もビジネス環境が整っているのは北米エリアです。

現時点までに世界で実施されたSTOのプロジェクト数は124で、そのうちの34件がアメリカで行われています。また、調達額も累計の50%以上が米国でのものとなっています。

さらに、こうして発行されたセキュリティトークンに投資を行う機関投資家(VCやファンド)数も他国の追随を許さず、二番手のドイツに比べて7倍に至る42社を数えます。

米国セキュリティトークン市場発展の背景と原動力

このように米国が世界に先駆けてセキュリティトークンが発展した背景は何だったのでしょうか?また、実際にこうしてマーケットが形成された原動力は何だったのでしょうか?

まず、米国においてセキュリティトークンに注目が集まった根本的な原因には公募証券の規制対応コストの高さが挙げられます。日本ではこの20年間、上場企業数が増加を続けており約1.8倍となっていますが、これとは対称的に米国ではサーベンス・オックスリー法等の影響で規制コストが高まり、上場企業数は20年前の半分近くまで減少しています。

こうした背景から、米国では公募証券以外に投資するVCやファンド等が手動する私募証券マーケットが拡大し続けています。そしてICOがアメリカで一大ブームを巻き起こしたのは、公募に近い規模での資金調達を容易に実施できるからでした。

もちろん、高い規制対応コストを踏み倒すICOのような資金調達方法は早くから潜脱行為として問題視され、SECを中心として適切なトークン発行規制に関する議論が始まりました。

こうした議論を経て、当局の求める基準に沿う形でのセキュリティトークン発行プラットフォーム事業者が多数現れたことが、米国のST市場発展の第一の原動力となっています。

米国には現在セキュリティトークン発行をサポートするプラットフォーム事業者が17社存在しています。第二位のドイツで10社、英国の6社、スイスの5社と続きます。世界全体の合計が53社であることから、その三分の一がアメリカに拠点を置く現状にあります。

また、先日自社のプラットフォームを用いて、セキュリティトークンを発行し400万ドル(約4億3000万円)の資金調達を行ったTokensoftのように、プロダクションレベルのサービスが次々現れていることも印象的です。

さて、このようにセキュリティトークン発行の仕組みが整うにつれ、「誰がそのトークンに投資するのか」が問題となります。

SECの規制によって公募的なトークン発行は困難となってしまいました。そのため、少人数私募(Reg:D)などのモデルが援用される形でのトークン発行が主流となります。

しかしながら、私募証券マーケットに投資を行ってきた機関投資家は、原資産の保管にカストディアンを利用することが義務付けられています。

そこで、この需要に応える形でカストディサービスやカストディシステムの提供に取り組む事業者が多数現れたのです。これが米国ST市場発展の第二の原動力となりました。

証券化商品の発行によってマーケットを牽引するのが発行プラットフォームなら、投資家のマーケット参入を促して活性化するのがカストディであり、どちらもセキュリティトークン市場の拡大に不可欠な存在だと言えます。

その証拠に、米国に次ぐドイツ・イギリスのセキュリティトークン市場においても、存在感のある発行プラットフォームとカストディサービスベンダーが現れています。

セキュリティトークンのカストディ類型

さて、それでは主に米国の事例をもとに、カストディモデルをいくつかの分類に分けて整理を行いたいと思います。

何度も繰り返されていることですが、セキュリティトークンのカストディとは、当該金融商品の処分権が紐づく秘密鍵を他人のために管理することを意味します。カストディモデルの分類とは、秘密鍵を誰がどのように管理するかによって整理されます。

例えば、投資家本人が自身のウォレットなどを用いて、セキュリティトークンを保管する場合、これはカストディアンが存在しないモデルになります(参考までにですが、英語圏では「Self Custody」とも表現します)。

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裏を返せば、投資家本人以外が秘密鍵を管理する場合は、広義のカストディに相当することになります。この広義のカストディは、さらに2種類に分類することが可能です。

1つは「ブローカー型」で、証券会社のように証券の発行・販売を行う主体が投資家本人に代わって秘密鍵を管理するものです。暗号資産の場合はちょうど取引所がこれにあたります。

もう1つは「独立専業型(狭義のカストディ)」です。例えば、信託会社やカストディ銀行のように、ブローカーからさらに管理業務を委託される事業者がいる場合がこれにあたります。

日本の暗号資産業界に独立専業型の事業者が存在しないため、今ひとつ実感がわかないかも知れませんが、諸外国ではウォレットサービスを提供してきた事業者や、Fidelityのような伝統的金融企業を母体とする事業者の二種類がこのタイプのカストディアンとして存在しています。

日本国内における現実的なアプローチ

セキュリティトークンの自己保管は(今のところ)難しい

現在のSTO規制は、証券監督者国際機構(International Organization of Securities Commissions、IOSCO)の主導のもとで「私募を当面のメインとする」という国際的コンセンサスのもとで整備されています。これは北米・EU・アジア圏のどこであろうと大きく変わりません。

そのため、日本においてもセキュリティトークンの発行ビジネスは、少人数私募か適格機関投資家への販売が主となるでしょう。この際、証券発行者の資金需要を満たそうと考えると、基本的な傾向として一口あたりの投資額が大きくなります。

大きな投資額を扱う投資家が本人の責任のもとで秘密鍵を自己保管することは、保管リスクや機会損失リスクの観点で今のところ現実的ではないでしょう。

このままカストディ機能を提供する事業者が現れないことには「トークンを発行しても買い手がいない」という状況が生じかねません。

それではどのようにカストディ機能をエコシステムに組み込んでいけばよいのでしょう?

証券会社がカストディシステムをDIYする?

暗号資産の取引所のうち、黎明期にサービスを立ち上げた事業者の一部は、秘密鍵を管理するウォレットシステムを自社で構築しています。このように証券会社のようなブローカーもDIYでカストディシステムを実現するべきでしょうか。

セキュリティトークンのブローカーは、単に仮想通貨の売買を仲介する仮想通貨販売所のビジネスモデルよりも、業務のスコープが広範です。そんな中で、証券化商品の追加などに合わせて自社でカストディシステムを開発・運営し続けることは、事業運営上の大きな負担を伴うでしょう。

また、証券会社のようなブローカーが個別にカストディ用の業務システムを構築することは業界全体の発展上も非効率です。

このため、証券会社によるカストディシステムの自社開発は多くの場合において現実的とは言い難い状況だと考えられます。

スタートアップが金商法ライセンスを取得する?

諸外国ではスタートアップ企業が一項有価証券のカストディが可能なライセンスを取得することで、カストディシステムではなく、カストディサービスそのものを提供する場合があります。特に米国では州ごとにライセンス取得の難しさが違うことも、このサービス提供形態を助けているでしょう。

しかしながら、日本においてはセキュリティトークンの預かり管理だけを行う場合にも、証券会社相当の規制対応が必要となります。

そのため、スタートアップがカストディアンとなるにもハードルが高く、一朝一夕で実現できるものではありません。

このような状況を踏まえると、カストディシステムを提供できるテクノロジースタートアップと既存の金融事業者が協力するモデルが、現時点における最適解と言えるでしょう。米・Fidelityも「カストディシステムはOEMが主流になる」とも発言しており、規制準拠に長じた事業者がスタートアップの提供するOEM型またはASP型カストディサービスを導入していく流れになるのでは、と考えられます。

さらに証券会社と信託会社が共通の業務用カストディサービスを利用し、企業間を越えてワークフローを共通化しコンプライアンスチェックやKYCが実施できる状態であれば、大幅な業務の効率化が見込めます。また、外部の公認会計士などに閲覧共有を行うことができると監査対応までもスムーズに実現できるでしょう。

まとめ

米国のセキュリティトークンを取り巻く動向を見る限り、マーケットを拡大していくための原動力は「発行プラットフォーム」と「カストディサービスベンダー」の2つです。

この2つの原動力は表裏一体ですが、まず発行プラットフォームがトークン発行のビジネスモデルを大まかに整えた上で、機関投資家の参入を促すためにカストディが必要とされる流れにあります。

セキュリティトークンの投資家にカストディ機能を提供するモデルには、証券会社によるブローカー型と、信託会社等による独立専業型の2つがあります。日本の私募証券市場の場合はブローカーによるカストディと信託会社等によるカストディが渾然一体となっている背景もあり、恐らくこの双方がカストディ機能を有していることが望ましいのではないかと考えられます。

さらに日本国内においては、ブローカー型・独立専業型ともに、既存の金商法ライセンス事業者が行うことが想定されるため、そうした伝統的金融企業にカストディ機能自体を提供できるSaaS型のソリューションが必要なのです。

Gincoのソリューションについて

私たちGincoは、諸外国におけるセキュリティトークンのエコシステム形成を継続的に観測し、その成果としてセキュリティトークンのカストディ業務に最適化された業務用システム「Ginco Securities Wallet」を開発してきました。

GSWはGincoの有する秘密鍵管理・署名処理に関する特許技術を活用しつつ、伝統的な有価証券の管理業務を想定したUI/UXを備えたシステムであり、機関投資家向けにカストディ機能を提供する証券会社・信託会社の皆様を主要なユーザーと考えて開発されています。

サービスデモ等をご覧いただくことも可能ですので、ご興味がある方はぜひ下記のお問い合わせフォームからご連絡ください。

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